コンクリート主任技士の試験対策として、定期配信の本日は「耐久性・維持管理(劣化機構)」の分野から、午後択一および記述式(原因究明・劣化予測)で毎年のように問われる最重要テーマ「塩害における塩化物イオンの浸透・拡散予測(フィックの拡散方程式)と発錆限界濃度」に関する問題をお届けします。
塩化物イオンがコンクリート内部へ侵入・浸透するメカニズムや、鉄筋位置での腐食発生限界値(発錆限界塩化物イオン濃度)、フィックの拡散第二法則の各パラメータ(見掛けの拡散係数など)は確実にマスターしておきましょう。
【問題】コンクリート構造物の塩害(塩化物イオンの浸透・拡散)に関する記述として、最も不適当なものはどれか。
- (1) 海洋環境下におけるコンクリートへの外部からの塩化物イオンの侵入・移動現象は、主としてコンクリート細孔溶液中の濃度勾配を駆動力とする「拡散現象」として扱われ、フィックの拡散の第二法則に基づき予測されることが多い。
- (2) コンクリート中の鋼材(鉄筋)が不動態被膜を失って腐食(発錆)を開始する限界の塩化物イオン濃度(発錆限界塩化物イオン濃度)は、一般的な鉄筋コンクリートにおいてコンクリート容積あたり 約 1.2 kg/m³(土木学会規準等)とされている。
- (3) コンクリートの水セメント比(W/C)を小さくすることや、高炉スラグ微粉末・フライアッシュなどの混和材を適切に使用することは、細孔構造を緻密化させて塩化物イオンの見掛けの拡散係数(D)を小さく(低減)させる効果がある。
- (4) 海洋環境の飛沫帯・干満帯に位置する構造物では、常に海水中に没している海中部(水中部)に比べて、コンクリート内部への酸素の供給量が制限されるため、鉄筋腐食の進行速度は最も遅く(穏やかに)なる。
【正解】
(4)
【解説】
- (1) 正しい:塩化物イオンの浸透・拡散モデルに関する正しい記述です。外部からの塩分浸透は、フィックの拡散方程式(拡散方程式第二法則の解:誤差関数 erf を用いた式)を用いて「ある材齢 t における深さ x での塩化物イオン濃度 C(x,t)」を予測・照査するのが標準的です。
- (2) 正しい:発錆限界塩化物イオン濃度の標準的な基準値です。コンクリート内部が健全な強アルカリ性であっても、鉄筋位置での塩化物イオン濃度が 1.2 kg/㎥ を超えると不動態被膜が局部的に破壊され、孔食(点状の腐食)から急速に発錆が進行します。
- (3) 正しい:見掛けの拡散係数(D)の低減対策に関する正しい記述です。
- 水セメント比(W/C)を小さくする ➔ 毛細管空隙が減少して組織が密実化。
- 高炉セメントB種等の使用 ➔ ポゾラン反応や潜在水硬性により細孔が微細化され、さらにフリーデル氏塩等の生成による塩化物イオンの固定化(フリーの Cl⁻ 低減)が起こるため、拡散係数 D は大幅に小さくなります。
- (4) 誤り(これが正解): 海洋環境のゾーン区分と腐食速度に関する超重要・頻出の引っ掛け問題です。
- 飛沫帯・干満帯: 「塩分」が大量に付着・濃縮されると同時に、乾湿繰返しによってコンクリート内部へ「酸素(O₂)」と「水分」が極めて豊富に供給されます。腐食反応(カソード反応:1/2 O₂ + H₂O + 2e⁻ →2OH⁻)が最も活発化するため、鉄筋の腐食速度は「最も激しく(最大)」なります。
- 海中部(常時水没部): 塩分は常に存在しますが、水に浸かっているため水中の溶存酸素しか届かず、酸素供給が律速となって腐食速度は比較的緩やかになります。記述では飛沫帯・干満帯で「酸素供給が制限され、腐食速度が最も遅くなる」としており、事実と完全に逆であるため明確な誤りです。
要点チェック(海洋環境ゾーンと塩害劣化の特徴)
| 海洋環境ゾーン | 塩分供給 | 酸素供給 | 乾湿繰返し | 鉄筋腐食の危険度 |
| 飛沫帯・干満帯 | 極めて大 | 極めて豊富 | あり(過酷) | 【最大・最も過酷】 |
| 海中部(水中部) | 大 | 少ない(溶存酸素のみ) | なし | 緩やか |
| 海上大気部 | 中〜小 | 豊富 | あり | 飛沫帯に次ぐ |
「鉄筋が錆びるには『塩分』『水』『酸素』の3つが必要であり、海中は酸素不足、飛沫帯・干満帯はすべてが揃うため最も激しく錆びる」というメカニズムを押さえておきましょう。